FOOD2024.06.13
古くから地域に伝わる
幻の調味料。
井田屋 秘伝 焼肉のみそタレ

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歴史深い緑の集落
島根県大田市温泉津町。その中心部から約10キロの山間の集落が“井田”である。北にレトロな街並みで人気を集める温泉津、東には世界遺産の石見銀山がある自然豊かで静かな集落だ。戦国時代は毛利氏と尼子氏の決戦の場であり、江戸時代は石見銀山から銀を運ぶ交通の要所として栄えた歴史深い地区でもある。しかし、他の島根県の集落の例にもれず、井田も人口減少が続いている。そのような中、ひっそりと注目を集めているある調味料がある。地域に伝わる家庭の味をアレンジ
井田に住む二柿美代子が母親から受け継いだものをアレンジした『井田屋 秘伝焼肉のみそタレ』。地元で人気のプレーンと、辛口、鬼辛の三種のバリエーションで展開されている。元々は二柿が家庭でつくり近所に配っていたもので、近隣の大代(おおしろ)地区でつくられた熟成味噌をベースに、生姜とニンニクをふんだんに加えた甘めのタレだ。その甘さは熟成味噌によるもの。発酵で極限まで増えたアミノ酸の旨みと甘みが豊かなコクと複雑な味わいをもたらしている。商品展開をするにあたって、プレーンのタレに唐辛子と花椒を入れた辛口、さらに容器から出るギリギリの粘度になるまで唐辛子を加えたという鬼辛が加わった。3か月に一回ほど、元は小学校である「井田まちづくりセンター」の家庭科室で地元有志によってつくられている。正真正銘の、井田発・井田作の焼肉のタレだ。二柿美代子さん地域の循環にも関わる商品づくり
辛口のバリエーションを充実させようと発案したのは、集落支援員の殿山裕子である。殿山は井田のまちづくりに関するワークショップから、このタレに関わることになった。井田は年々人口減少が続き、過疎化が進んでいる。それの対策として、井田発の特色ある商品をつくり、活性化を図るためのワークショップだった。井田は繁殖和牛農家が多い地区であり、和牛と親しみがある住人が多い。そのためか、二柿のつくる評判のタレが商品として展開していくことが決まったのだ。さらに、過疎化に伴って登場した地域タクシーというものの資金源としても期待されている。地域タクシーとは、ひと月に決まった金額である程度の乗り降りが自由なタクシーだ。乗合なので乗客同士の会話も弾み、コミュニケーションの場にもなっている。地域に特色を作って活性化を促し、交通インフラにも寄与する期待の商品として『井田屋 秘伝焼肉のみそタレ』は社会的な意味合いも大きくある。殿山裕子さん濃厚な旨味はさまざまな料理で活躍
『井田屋 秘伝焼肉のみそタレ』は県内の道の駅を中心に販売され、リピーターも増えてきている。和牛の里で愛されているだけあって、シンプルに焼肉に使うのが一番のおススメ。特徴的なコクと甘さはホルモンうどんなど幅広い料理にアレンジできる。冷ややっこに直接かけるとご飯だけでなく酒も進む逸品に。ミートソースのような洋食の隠し味としても注目されている。愛用者からは卵かけご飯にかけるといったアイデアも寄せられている。焼き肉のみそタレは全部で3種類
・プレーン/地元産の材料を使った手作り味噌がベース。生ニンニク・ショウガ、地元産の醤油などを合わせて仕上げています。
・辛口/プレーンに赤山椒と唐辛子をプラス。ほどよい辛さと香りを楽しめます。
・鬼辛/激辛党が作った激辛党のためのタレ。辛さの中に旨さあり。シビれる山椒が癖になりそう。地域がつくり、地域をつくる焼肉のタレ
井田は人にとっても牛にとっても環境がよく、県外からの若い就農者も増えてきている。そこかしこで見られる、田んぼに放牧された牛は何とものんびりしていて気持ちの良い光景だ。夜になると、驚くほど空が深くて星が美しい。そういった井田の唯一無二の魅力は世代を問わず心に刺さるものだろう。二柿、殿山は『井田屋 秘伝焼肉のみそタレ』を通して井田を知ってもらい、まずは足を運んでほしいと言う。派手な観光地はないが、井田の人々の暮らしや自然こそが最大の魅力なのだ。そのような井田に伝わり、愛され、みんなでつくっている『井田屋 秘伝焼肉のみそタレ』。地域の人々の暮らしを体験できるようなタレとして、生活に取り入れてみてはどうだろうか。