私が高校生だった３０年以上前のこと。小さな地方都市・島根県浜田市に、店主１人でメニューは餃子だけの小さな専門店があった。たまたま実家の近くにあったので、食べに行ったりしたり出前を頼んだことが何回もある。友達が遊びに来た時などは、１人３０個も出前を注文した。１５分くらいでチャイムが鳴り、おじさんが手渡してくれる竹皮紙に包まれたずっしりと重い熱々の餃子。それまでゲームやおしゃべりに夢中になっていた高校生たちは、途端に手を止めて一心不乱に餃子を頬張り始める、そんな思い出がある。
卒業後に地元を離れてしばらくしてからおじさんの体調が芳しくなくなって、その小さな餃子専門店はひっそりと閉店したことを耳にした。大好きな味だったのでとても残念に思ったことを覚えている。

手づくりの少し厚めでもっちりとした皮に包むのは、ブランド豚の肩ロースと上質な脂身を７対３の割合で粗挽きにしたミンチとたっぷりとキャベツをあわせたこだわりの餡。しょうゆ漬けしたニンニクを隠し味に、しっかりとした味付けがされているので、タレに漬けずそのまま食べるのがこのお店の流儀。一般的な餃子の１.５倍くらいの大きさで、ボリューム満天、食べごたえ抜群、あふれる肉汁でご飯が進みすぎるあの餃子。あの頃のお供は白飯だったけど、今だったらビールもいいな。
そんな私にとっては幻の餃子が、ひっそりとレシピを引き継ぎ今もあのしふくの味を提供してくれる人たちがいる。

それは、障がいのある方たちの就労を支援する福祉事業所の方たちだ。私は、福祉の世界とはあまり関わりを持っていなかったので、「福祉」というと、高齢者や介護というイメージを持っていたが、障がいのある方たちを支える福祉があるという当たり前のことを今回のことで知った。障がいがあるということにより、就労を含めた様々な体験、経験をする機会を得ることが難しいのは、ご本人たちではなく社会側に障がいがあるということだ。就労を支援する福祉事業所は、その方たちの就労の場をつくり、その機会を提供することを福祉サービスとしていて、皆さんの働きがあるからこそ、あのしふくの味の餃子が冷凍餃子となっていまも受け継がれているのだ。
ありがとう！ふくしの人たち。

早速、購入して食べてみたが、確かに懐かしいあの餃子だった。冗談抜きで涙が出るほどに嬉しかった。いまは、地方の小さな町にも大手全国チェーンの飲食店が進出している。どこにいても同じ味を楽しむことができる。弛まぬ企業努力により提供されている大手の味は、それはそれでとてもおいしいし便利ではあるのだけど、地域の個人店が提供する、そこにしかない味も大好きだ。しかし、地域では閉店していく個人店がたくさんある。理由は様々だろうが、個人店が提供しているそこにしかない味は、失われるともう二度と食べることができないことが多いことだろう。あの餃子のように、誰かが受け継いでいてくれていまも食べることができることことは稀なことだろう。なので、私はこの先も豚豚餃子を食べられる幸せを噛み締めたいと思う。
大手の冷凍餃子とは全く違う、ボリューム満点で、食べ応えがあって、タレが必要なくて、肉汁があふれる豚豚餃子をぜひ皆様にも味わっていただきたい。